シンガポール:人口構造から見るシンガポールの労働力動向 

 シンガポールの強みは、金融や貿易といった産業の側面だけでは説明しきれない。国の成長を支えてきた要素の一つに、必要な人材を適切なタイミングで確保し、社会と経済の活力につなげてきた人口戦略がある。年次資料「Population in Brief」は、こうした戦略が「活力ある人々」「ダイナミックな経済」「包摂的な社会」「強靭な国家」をどのように支えるかを示し、人口動態の変化が労働力に与える影響を考える上での手がかりとなる。 

本稿では、2025年9月発表の「Population in Brief 2025」を軸に、少子化・高齢化・外国人労働力の動きから、今後の労働力の方向性を整理する。 

 

少子化: 

2024年の市民出生数は前年より増加したが、長期で見ると小家族化の流れが明確である。合計特殊出生率(TFR)は0.97と低水準で、2023年から横ばいであった。背景としては、晩婚化や出産の先送り、年齢要因による妊娠の難しさ、育児コスト、仕事と家庭の両立負担など、先進国に共通する要因が挙げられている。一方で、若年層には結婚や子育てへの意向も残っており、政府は住宅・医療・経済支援などの包括策により後押しする方針を示している。 

 ここで重要なのは、出生数の増減だけでなく、個人の意向と現実の制約のギャップがどの程度埋まるかが、中長期の労働供給と生産性に影響し得る点である。企業側にとっては、採用競争の強弱だけでなく、業務設計(自動化・標準化・データ活用)を通じて人手不足の影響を緩和する発想が一層重要となる可能性がある。 

高齢化: 

高齢化はすでに進行している。市民の65歳以上は20.7%に達し、2030年には約4人に1人(23.9%)が65歳以上になる見通しである。 また、80歳以上の市民数は2015年から2025年で約60%増(9.1万人→14.5万人)と伸びている。その一方で、働き盛り層(20〜64歳)の比率は2015年64.5%から2025年59.8%へ低下している。 

この構図は、医療・介護・生活支援の需要増に加え、社会全体として「限られた人手で回す」局面が強まることを示唆する。したがって、必要となるのは人員の追加投入だけではなく、現場運用の改善、業務の標準化、デジタルの実装などを通じて生産効率を高めるための「設計と運用」を担う人材である可能性が高いと思われる。 

外国人労働者の増加: 

総人口は2025年6月時点で 611.1万人、前年差 +1.2% であった。その伸びを牽引したのは 非居住者(Non-residents) で、2024年6月の 185.6万人 から 2025年6月には 190.7万人(+2.7%) へ増加している。一方、市民は +0.7%、永住者(PR)は概ね横ばいであった。 

増加の背景として、チャンギ空港ターミナル5や住宅供給拡大などのインフラ対応があり、特に建設セクターのWork Permit Holders(WPH)の増加が挙げられている。ここから見えてくるのは、「外国人労働者が増えた」という一般論ではなく、必要な分野に労働力を配分し、需給に応じて規模と構成を調整する政策運用がとられているという点である。 

【補足】在留邦人の増加: 

補足として、シンガポールにおける在留邦人数にも触れておく。海外在留邦人数調査統計(2025年発表、各年10月1日現在)によれば、シンガポールの在留邦人数は2023年31,366人→2024年32,565人→2025年33,397人と、2年連続で増加している。 

就労ビザ取得の難易度が上がったと感じる企業がある中でも邦人が増えている背景は一様ではないが、(貢献や統合・定住意思を重視する)政府の選別方針と、地域統括や重要顧客対応などを現地に置く企業側の配置需要が重なった帰結として捉えるのが妥当である。 

おわりに: 

少子化と高齢化が同時に進む中、シンガポールは非居住者を含む労働力の配分で経済の土台を支えつつ、社会の持続性も守ろうとしている。「人を中心に発展してきた」シンガポールが、これからどのように「限られた人手で回す国」へ舵を切っていくのか、引き続き、人口構造の変化と労働力の動向を継続的に確認していく。 

 

出典:Department of Statistics Singapore 

https://www.singstat.gov.sg/find-data/search-by-theme/population/population-and-population-structure/latest-data 

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